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東京高等裁判所 昭和60年(行ケ)125号 判決

一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(補正前及び補正後の本願発明の特許請求の範囲)、三(本件各補正却下決定の理由の要点)及び四(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について検討する。

前示のとおり、審決は、本件各補正却下決定がなされたことを理由として、出願公告された明細書の特許請求の範囲の記載に基づいて本願発明の要旨を認定し、右認定を前提として、本願発明は引用例記載の発明と同一であるとしたものであるから、本件各補正却下決定に原告主張の違法が存するか否かについて検討する。

本件各補正却下決定は、前示本件各補正却下決定の理由の要点(請求の原因三)記載のとおりの理由により、本件各補正について、「前記手続補正によつて本願明細書の記載が補正前に比して明瞭になつたものと認められない。」と説示して、本件各補正は特許法第六四条第一項の規定に違反するものとしているのであるが、右によれば、本件各補正却下決定は、本件各補正が明瞭でない記載の釈明(同項第三号)を目的とするものであるか否かについて判断し、右事項を目的とするものでない旨認定したにすぎず、本件各補正が特許請求の範囲の減縮(同項第一号)、誤記の訂正(同項第二号)を目的とするものであるか否かについては判断を示していない。

ところで、成立に争いのない甲第六号証(昭和五八年九月一三日付手続補正書)及び甲第七号証(昭和五九年九月一一日付手続補正書)によれば、本件各補正が誤記の訂正を目的とするものでないことは明らかであるが、以下説示するとおり、本件各補正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当すると認めるのが相当である。すなわち、前示補正前及び補正後の本願発明の特許請求の範囲(請求の原因二)記載のとおり、第一の補正において、出願公告された明細書の特許請求の範囲に加えられた「所定間隔で」、「糸が各摩擦円板表面の移動方向と角度をなして走行して該摩擦円板上で充分に転がり運動するように、各組の摩擦円板の装置の中心軸線を越えて他の全ての組の摩擦円板に重合配置しており、」、「糸にS撚りまたはZ撚りを付与するように、糸の撚方向に合せて摩擦円板の相対配置を変更可能に摩擦円板を設けた」という補正事項はいずれも、本願発明における摩擦円板の配置につき、出願公告時の明細書に記載されたものに更に限定を加えたものというべく、したがつて、第一の補正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当すると認められる。

次に、第二の補正についてみるに、本件各補正却下決定が挙示した適用条文からすると、第一の補正は、審判段階での本願発明に係る出願公告に伴い特許異議が申し立てられたことに対応してなされた補正であり、第二の補正は、次いで、審判段階で査定で示された拒絶理由と異なる拒絶理由が通知されたことに対応してなされたものと認められるところ、本件各補正却下決定は両者の補正を同日に一括して却下したものであることは前記のとおりであり、このように出願人において第一の補正の許否が決定される前に第二の補正をよぎなくされた場合、第二の補正については、許否いずれとも決定されていない第一の補正を基準として特許法第六四条第一項所定の補正の範囲を画することはできないこと明白であり、おのずから、出願公告された明細書の記載を基準として補正をする外なく、現に本件第二の補正もその趣旨でなされたものと認められ、第二の補正却下決定においても、「上記の手続補正は、出願公告時の明細書の全文と図面の一部を補正しようとするものである」としたうえで、該補正は請求の原因三、2掲記のような理由で却下すべきものとしたのである(この補正却下決定の内容は当事者間に争いがない。)から、当裁判所も、出願公告された明細書の記載を基準として第二の補正が特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるかどうかを検討するのを相当とする。そして、第二の補正により特許請求の範囲に加えられ、第二の補正却下決定において問題にしている「糸が次々に連続して接触する摩擦円板の相対配置を、糸に付与すべきS撚りまたはZ撚りの撚り方向に合せて変更可能に摩擦円板を設けた」という補正事項も本願発明における摩擦円板の配置につき、出願公告時の明細書に記載されたものに更に限定を加えたものというべく、したがつて、第二の補正による右補正も特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当すると認められる。

被告は、本件各補正後の特許請求の範囲の記載は不明瞭であるから、補正後の特許請求の範囲を補正前(出願公告時)のものと対比することができず、本件各補正が特許請求の範囲の減縮を目的とするものであると認めることはできない旨主張するが、仮に、本件各補正後の特許請求の範囲の記載が不明瞭であつて、本件各補正によつて補正前の本願明細書の記載に比してその記載が明瞭になつたものと認められず、したがつてまた、本件各補正が「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものと認められないとしても、そのことによつて直ちに、本件各補正が特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当しないと断定することはできないものというべきであつて、被告の右主張は理由がない。

以上のとおりであつて、本件各補正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するにかかわらず、本件各補正却下決定は、このことを看過し、本件各補正が明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当しないという理由を挙げたのみで、本件各補正は特許法第六四条第一項の規定に違反するとしたものであるから、違法といわざるを得ない。

ところで、右のとおり、本件各補正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるが、本件各補正が更に特許法第一二六条第二項の規定の要件をも満たし、最終的に適法であるか否かについては改めて専門行政庁たる特許庁において審理判断すべき事項であり、その判断の帰するところに基づいて再度本願発明の特許出願について特許をすべきかどうかを判断して審決すべきであるから、本件各補正却下決定が前記のとおり違法であることは、右決定を前提として本願発明の要旨認定を行い、右認定に基づいて引用例との対比判断を行つた審決自体にもこれを取り消すべき違法を招来するものというべきである。

三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求はその余の取消事由について判断するまでもなく正当としてこれを認容することとする。

〔編註その一〕 補正前および補正後の本願発明の特許請求の範囲は左のとおりである。

1 補正前(出願公告された明細書記載)の特許請求の範囲

糸にS撚りまたはZ撚りを与えるため、糸のまわりに多角形形式で配置される少くとも三組の摩擦円板の組を有し、各組における摩擦円板が互に同軸線に配置されかつ別の組の摩擦円板と重なり合うように配置され、摩擦円板が軸線方向に相離れかつそのすべてが同一方向に回転する摩擦仮撚り装置において、一つの摩擦円板に対して糸の進行方向に向つて隣接する摩擦円板の軸線が常に前記の一つの摩擦円板の軸線に対して摩擦円板の回転方向に向つて隣接する軸線であるように摩擦円板が配置されていることを特徴とする摩擦仮撚り装置。(別紙図面(一)参照)

2 第一の補正後の特許請求の範囲

糸にS撚りまたはZ撚りを与えるため、糸のまわりに多角形形式で配置される少くとも三組の摩擦円板の組を有し、各組における摩擦円板が互に同軸線に配置されかつ別の組の摩擦円板と重なり合うように配置され、摩擦円板が軸線方向に所定間隔で相離れかつその全てが同一方向に回転する摩擦仮撚り装置において、糸が各摩擦円板表面の移動方向と角度をなして走行して該摩擦円板上で充分に転がり運動するように、各組の摩擦円板を装置の中心軸線を越えて他の全ての組の摩擦円板に重合配置しており、一つの摩擦円板に対して糸の進行方向に向つて隣接する摩擦円板の軸線が常に前記の一つの摩擦円板の軸線に対して摩擦円板の回転方向に向つて隣接する軸線であるようにして、糸にS撚りまたはZ撚りを付与するように、糸の撚方向に合せて摩擦円板の相対位置を変更可能に摩擦円板を設けたことを特徴とする摩擦仮撚り装置。(別紙図面(一)第1、第2図参照)

3 第二の補正後の特許請求の範囲

糸にS撚りまたはZ撚りを与えるため、糸のまわりに多角形形式で配置される少くとも三組の摩擦円板の組を有し、各組における摩擦円板は各組毎に一つの軸に配置されかつ前記軸とは別の軸に配置された別の組の摩擦円板と重なり合うように配置され、摩擦円板が軸線方向に一定間隔で相離れかつその全てが同一方向に回転するように設けた摩擦仮撚り装置において、糸が各摩擦円板表面の移動方向と角度をなして走行して該摩擦円板上で充分に転がり運動するように、各組の摩擦円板を、該各組の摩擦円板中心から等距離に位置する装置の仮想中心軸線を越えて他の全ての組の摩擦円板に重合配置しており、前記摩擦円板は糸に付与すべき撚り方向に応じてその回転方向を変えるように正逆転可能に設置されており、一つの摩擦円板に対して糸の進行方向に向つて隣接する摩擦円板の軸線が常に前記の一つの摩擦円板の軸線に対して、摩擦円板の回転方向に向つて隣接する軸線であるように、糸が次々に連続して接触する摩擦円板の相対配置を、糸に付与すべきS撚りまたはZ撚りの撚り方向に合せて変更可能に摩擦円板を設けたことを特徴とする摩擦仮撚り装置。(別紙図面(二)参照)

〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。

別紙図面(一)

<省略>

別紙図面(二)

<省略>

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